川北英隆のブログ

本当のバリュー株投資とは何か

最近、日経新聞でバリュー株投資のことが書いてあった。その内容を検証したわけでもなく、加えて分かりにくい内容だった。思うに短期のアヤを取る投資のことを書きたかったのだろうが、バリュー株という用語と、その使い方が気になった。
バリュー株、直訳すると「(投資するのに)お値打ちの株」ということだろう。投資理論で対をなすのがグロース株(成長株)である。このバリュー株かグロース株かは、常識とは離れた方法で区分される。
その方法とは、一口でいえば株価純資産倍率(PBR)を用い、PBRが高い企業の株式をグロース株、低い株式をバリュー株とするもの。PBR高いか低いかは、企業全体の中で上位か下位かで機会的に決められる。つまり相対的な評価である。
僕自身、最初、この方法の意味がよく分からなかった。しかも、投資の神様とされるウォーレン・バフェットの方法がバリュー株投資だとされるから、余計に混乱する。当然ながら、バフェットがPBRの高い低いで、ある株式に投資するかしないかを決めているわけでない。むしろ、PBRとは別世界にいる。
まず、一般の投資家として必要なのは、日経新聞などの日本の株式投資の世界で出てくるバリュー株投資と、時々登場するバフェットのバリュー株投資とを峻別することだ。峻別するため、前者を「なんちゃってバリュー株投資」と呼んでおこう。
バフェットのバリュー株投資とは、企業の業態や収益力をじっくりと分析することにある。そのうえで、リーマンショックなどのイベントで株価が大きく下落した時、満を持して大量に購入する。素晴らしい企業の株価が大きく下落したという意味で、バリュー株なのだろう。
では、日本の「なんちゃってバリュー株投資」の効果はどうなのか。
2000年以降のPBRを分析したところ、リーマンショック以降、状況が大きく変化している。つまり、現時点でのPBR と、1年後、2年後など、将来のPBRとの相関が強くなっている。つまり、PBRの高い企業は将来のPBRが高く、低い企業は将来も低い。
詳しい説明は省くがPBRは重要な指標である。PBRの分母の純資産とは、会計が固定資産などの価値を正しく計測しているとすれば、企業の解散価値である。すなわち、企業解散時に株主が受け取れる金額である。
そのPBRが1倍を割っているということは、その企業の現時点での事業活動が株主資本を毀損している、言い換えればダメな事業活動をしていると株式投資家が評価しているのに等しい。逆にPBRが1以上の企業は株主資本を増やす良い企業との評価になる。なお、断っておきたいのは、世の中、良い企業か悪い企業かをPBRなどの1つの指標で割り切れるものではない。とはいえ、PBRの重要性は揺るがない。
もう1点、現在の上場企業の半数近くがPBR1倍割れだという事実である。
以上を踏まえると、PBRの高い企業は将来のPBRが高く、低い企業は将来も低いという事実は、言葉を変えると、現時点で良い企業は将来も良い企業であることが多く、ダメ企業はダメ企業であることが多いという評価を意味する。
実際、リーマンショック以降、PBRが極めて高い企業に投資すれば投資収益率が高く、PBRが低い(1倍割れの)企業に投資すれば投資収益率が低い傾向とのが強まっている。
ここから先は仮説である。僕自身は次のように解釈している。
リーマンショック以前は、日本企業が1990年代のバブル崩壊から立ち直る時期に相当していたため、PBR1倍割れの中には立ち直りの期待できる企業が多く含まれていた。実際に立ち直った場合の株価上昇率がきわめて高かった。
リーマンショック以降、立ち直りの時期が終わり、中国を含めた世界的な競争も高まったため、それまでに立ち直れていなかった企業の多くに収益チャンスが訪れなかった。立ち直っていた企業は収益を伸ばした。PBR1倍超えの企業の中に、バフェット的なバリュー株の含まれる可能性が高まったのである。

2019/10/19


トップへ戻る