川北英隆のブログ

日本の第二の敗戦

16日の日経新聞3面に衝撃を受けた。1人当たり名目GDP(国民総生産)である。2027年に韓国に抜かれ、さらに翌年には台湾に抜かれるとの予想である。
1人当たり名目GDPは生活水準に直結する。1人当たり名目GDPで韓国と台湾に抜かれるということは、日本時間の平均的な生活水準が2国に劣後することに等しい。
その記事に付いていたグラフを見ると、(誇張できるようにグラフが描かれているものの)日本のGDPがなだらかに上昇しているのに対し、韓国と台湾が鋭角的に伸びている。想定の範囲内とはいえ、抜かれるまで後5年程度とは・・。そこまで日本経済の停滞が続いたのかと衝撃を受けた。日本の第二の敗戦である。コロナの対応で敗戦したと考えれば、1人当たりGDPは第三の敗戦だとの主張もありえるが。
日本の人口構成が老齢化しているからというのは的外れである。韓国も台湾も老齢化は同じである。むしろ韓国の老齢化はこれから急速に進む。日本が負けたのは企業の活力の差でしかない。
日本企業は、すぐ隣りの日本企業だけを見ている。賃金で負けていないと確認し、東証に上場できたと喜ぶ。それだけである。世界水準に目がいかない。
その最たるものが経団連だろう。仲良しクラブになり、互いに競争することを止め、横並びを志向している。「世界では」という視点がまったくというほど欠如する。この点、いつものように、「東京に何の意味があるねん」としか思っていない京都企業が思い浮かぶ。経団連企業に対して、質の観点で大差をつけてしまっている。
それはともかく、平均的な日本企業がかかえる問題は経営者(役員)である。彼らは、そして多少の彼女らはサラリーマンだから、役員としての定年までの何年間かを大過なく終えたいと思っている。その意識が強すぎる。リスクを取らない。もちろんリスクを取らないのには良い面があるものの、現実はリスクを取らなすぎる。リスクをとって失敗すれば、サラリーマン人生の晩節を汚してしまう。
もっと言えば、平均的な日本企業の経営者とは、先代、先々代等々の行動の多くを是認し、たまに多少の修正を提案し、偉くなってきた。その結果、平均的な日本企業が大胆な行動とリスクをとらなくなった。
1980年代のバブルが崩壊して以降、とくに90年代後半以降、経営を立て直すためのリストラ志向が強まり、「経営とは不要なものを排除すること」との意識が広まった。逆から見れば、「経営とは新しいことを試みて成功させるもの」との意識が絶滅危惧種になった。
ときたま新しいことを試みようと提案する者が出てくる。すると何やかやと問題点を指摘し、提案を潰そうとする。他国の企業が、その提案と同じような新規事業で成功すると、ようやく、それも「よっこらしょ」と、老人的な掛け声とともに動き始める。
ようく考えてみるに、バブルが終わり、日本の輝きも終わったのが1990年、その年に入社した者は、今や50代半ばである。バブルの後始末という縮小均衡しか知らない世代が経営者になっている。新しいことにリスク覚悟で(もちろんリスクが顕在化しないように万全に準備して)始めるのが本来の経営だとは、何も学んでこなかった。
書けば際限ないので止めておこう。この30年近く続いた平均的な日本企業の経営者の思考パターンのおかげで、日本人の生活水準は韓国と台湾に抜かれる。抜き返すには、今から思考パターンを変えておかなければならない。
従業員として何をすべきなのか。とり急ぎ、今は死語に近い賃上げストライキを行うべきだろう。従業員の能力を正当に評価せよと訴えるべきである。政府主導の賃上げなんて、偽物である。働くものが経営者に対して牙を向くべきである。牙を向いても経営が変わらなければ、そんな企業をとっとと去るべきである。

2021/12/18


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