川北英隆のブログ

日本の新聞社の金融力

前からずっと思っていることがある。それは日本の報道機関の株価や為替の「伝え方の変さ」である。金融力というか、流行りの用語を使うと金融リテラシーの欠如を前提としている。欠如しているのが報道機関自身なのか、読者・視聴者なのかは不明ながら。
株価が大きく変動した時の新聞の見出しを思い出してみよう。株価が大きく下げた時に顕著なので、その時のことを模式的に書いておくと、「日経平均株価 1000円安」とか「米国株価 1000ドル安」とかである。
最近の世界の株価は、金利引き上げの影響によって大きく下げている。その大きな震源地であるアメリカでも大きな下げが繰り返され、最近(9/13)もダウ平均株価が1276ドル下がった。調べると、1000ドル以上下落したのはこの6ヶ月間で4回ある。
では、この下げ幅は大きいのか小さいのか。単純に「大きい」と答えるのは、日本の新聞的な金融リテラシーの欠如である。
前にも書いたと思うが、サラリーマンをしていた1987年10月20日、朝飯を食べように思ってテレビのニュースを何気なく見ると、アメリカの株価が大幅に下落したと報じていた。507ドル安だと。当時は株式部に勤務していたので、株価の動きは直接仕事に関係する。その下げ場を見た瞬間、「数字が間違っているやろ」と疑った。
その後のことはともかく、この日の朝に知ったアメリカ株価の大幅な下落は「ブラックマンデー」として歴史に残る株価下落劇だった。念のために書いておくと、日本で下げを知った20日は、アメリカ時間で19日の月曜日の夜だった。13日の金曜日ではない。
ここで疑問が出てくるだろう。「たった507ドル安で歴史に残るって何なのか」「ブログの数字を書き間違っているのではないか」。理由は極めて単純、ダウ平均株価が前日の2246ドルから1739ドルへと、率にして22.6%下落したためである。
いくら株価が上げ下げするとはいえ、1日のうちに23%近く下げるのは「底抜け」である。ちなみに現在の1000ドルの下落は率にして3%程度でしかない。今のダウ平均株価の水準が3万ドル程度だからである。
以上から、値幅だけをニュースとして報じるのは、報道機関に金融リテラシーが欠如しているのだろう。さもなければ、読者・視聴者の金融リテラシーのなさを前提としているのか、バカにしているのか、驚かして耳目を引こうとしているのか。
もう1つの説明の方法があるとすれば、日本はデフレの国だから日経平均株価の1000円の下落は、何年、何十年経っても1000円だということかもしれない。つまり報道機関からして、黒田日銀が目指す「インフレの時代」を諦めているのかもしれない。
ついでに書いておくと、僕がアメリカの株価を見るために開くナスダックのサイトはもちろん、世界の株価動向を見るのに優れているロイターのサイトも、値動きの幅と一緒に率も表示してくれている。これに対して日経新聞のパソコンのサイトは、よく探せば値動きの幅も率も分かるのだが、トップページには幅しか出てこない。日本取引所(東証)のサイトも同じで、値動きの幅だけである。よく探せば率もある程度である。
日本の金融リテラシーを高めようというのであれば、報道機関としては、まずは我が身を正すのが筋だろう。

2022/10/15


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