川北英隆のブログ

企業運動会かオリンピックか

近頃の日本の株式市場は小学校の運動会風である。日本経済全体を底上げしようとか、東証の市場第一部に上場している全企業と投資家が対話し、言い換えれば批判したり褒めたりして2200社近くの企業を伸ばそうとかした。良く言えば理想追求、本質は幻想だろう。
企業が2200も集まれば、しょうもない企業、だまし的な企業が含まれるのは当然である。周囲を見渡しても、すばらしい物・者だけしかない世界が幻想でしかないのは明らかである。政治においてさえ(政治の世界だからこそ?)、しょうもない議員・大臣、だまし的な議員・大臣が撲滅されないのと同じである。
その一方、アメリカのS&P500に組み入れられている500社にPBR1倍割れがほとんどない。どうなっているのか。立派な企業が多い理由はどこにあるのか。考えられる理由は2つある。
1つは、アメリカ市場における時価総額上位500社を集めてS&P500の構成企業としている事実にある。良い企業でないと上位500に入らない。同時に、投資家が客観的に企業を評価し、株式を売買していることも手伝っている。
もう1つは、PBR1倍割れのようなダメ経営を長く続けていると周囲からの圧力が強くかかり、その企業のダメ部門が切り離されるか、ダメ企業全体が他社に飲み込まれるかしてしまう。常にM&A(企業買収)の力が働くことを意味する。
日本市場を強くするには、このアメリカを見習う必要がある。
1つは、投資対象としてS&P500的な株価指数を作ることである。2200社から1割程度、つまり200社程度を選び出し、鍛えることが必要ではないのか。
もう1つはプロの投資家を育まないといけない。今の公的年金の立ち位置のように、東証株価指数を構成している2200社のすべてを伸ばそうという小学校の体育の先生のような発想では、S&P500企業をはじめ、世界で戦えるアスリート企業が生まれないのは当然である。
以前に書いた記憶があるのは、今の日本企業の反面教師として、村上ファンドの役割が大きかったという事実である。「下手をしたらいちゃもんを付けられる」という危機意識が企業を強くする。
村上ファンドは小さな脅しであるから、脅しに屈しないために姑息な手段に走る企業も出現する。そこで思うのは、もっと大きな力を働かせる方法がないかと。
答えとして、日銀がある。
1つに、これから先も株式(ETF=上場投資信託)を購入する必要があるのなら、PBR1倍割れ企業を外す、つまり「PBR1倍割れなら買わないよ」と宣言することである。
2つに、すでに購入した株式を活用する方法である。PBR1倍割れ企業の株主総会において、会社側の議案全てに、もしくは取締役候補者選任議案に対して反対する方法である。
3つに、近い将来、保有している株式の売却を考える場合に、PBR1倍割れかどうかで、その売却の方法を違えることである。
要するに、日銀が世界で戦えるアスリート企業の指導者になる方法はどうなのか。企業経営に対する公的機関の介在は望ましくないが、他の投資家が誰もやろうとしないから仕方ない。しかも日銀は株式購入という毒薬をすでに大量に使ってしまったのだから、その毒薬を良薬に変える工夫なら許されるだろう。

2022/12/30


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