川北英隆のブログ

コメ生産に必要な先物市場

政府のコメ政策が生産拡大へと転換するようだ。そのためには大規模農家、つまりプロ農家を育てなければならない。地方の衰退と老齢化が進むなか、当然の政策転換だろう。しかし不足するものがある。コメの価格情報であり、そのヘッジ手段の提供である。
コメを代表とする農産物の価格は天候に大きく左右される。だからプロ生産者にとって事前に売値を決めておくことが望ましい。海外、とくにアメリカでは農作物の先物市場がシカゴを中心に発達している。
まず、先物市場は需給に関する明確な指標を与えてくれる。市場参加者の「儲けたい」との強い思いから、コメの不足もしくは過剰の予測情報が市場に集中し、コメ価格を変動させる。コメが不足するようなら、価格は高騰する。コメが余るようなら、価格は下落する。「コメが過不足」が明確でないという、昨年の農水省的「ぬるい態度」は排除される。
次に、先物市場で「収穫できるであろうコメ」を一定量売っておけば、プロ農家は安心してコメの栽培ができる。コメの価格下落リスクをヘッジするわけだ。
たとえば、結果が豊作で、コメ価格が下落したとしても、事前に比較的高い値段でコメを売っているから(言い換えれば価格下落リスクをヘッジしているから)、一定の利益が確保できる。不作でコメ価格が高騰すれば「高く売れるチャンスを逃した」と思ってしまうだろうが、価格下落に対する保険料を払ったと思えば納得もいく。実際は先物市場で事前に売っておくコメの量をどの程度にするのかなど、考えるべきテクニックはいくつかあろうが、基本は先物市場があれば、「収穫期にどうなることやら」との心配から解放される。
実のところ、日本には堂島取引所というコメの先物市場がある。しかしいまだに取引量が少なく、プロ農家がコメ価格下落リスクをどの程度ヘッジできるのかどうか。鶏と卵の関係だから、誰かが積極的に市場を使えば、それが呼び水となり、堂島取引所も成長するのかもしれない。日本のコメ先物市場の成長を促すには、農水省やJAが政策として先物市場を積極的に使うことに尽きるだろう。
もう1つは、技術的になるが、コメ先物の対象が「堂島コメ平均」と名付けられたコメ価格指数だという点が問題となる。その価格指数と「実際に食用として売買されるコメ」(つまりコメの現物)とが直接関係づけられていない。
株式や債券にも先物市場がある。これらの市場では先物と現物が直接関係づけられている。つまり先物市場で売買する株式価格や債券価格を、現物で模倣することや、現物を先物市場で受け渡すことが可能である。このため、先物価格と現物の価格が密接不可分に推移する。この密接不可分性がないと、先物価格だけが投機によって異常に上下動しかねない。
さらに「堂島コメ平均」の基礎データは、KSP-SP(東京・港)のPOSデータに基づく平均店頭価格だそうだが、この価格は中小スーパーでの小売価格である。プロ農家が取引する価格ではない。もっとましなデータをJA中心にまとめられないものか。
思うに、農水省は多分、市場から一番遠い役所である。プロ農家を育てるのなら、市場意識を高めるため、役所の再編が必要になるかも。経済産業省をいくつかに分けて、農業庁、漁業庁、林野庁を作るとか。方向転換するとなると大改革が必須である。

2025/08/10


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