連日、日本の株価が日経平均での最高値を更新している。これに対する知人からのメールに「まったく最近の株式市場はどうかしてる」と書いてあった。そこで「ネコジャラシみたいなもんや」と返事をしておいた。
僕は長期投資の観点から日本の株式を保有しているから、値上がりは嬉しいのだが、1989年のように無暗に上がってしまうと後が怖い。現在の株価は当時ほど異常な高値にないものの、「どうかしてる」のも確かである。
1つの要因は、24年1月に新NISA制度が始まったことにある。市場の需給が需要超過、価格上昇に傾いたため、またアメリカ市場の活況もあり、成功体験を得た投資家が多いのだろう。だから「株価は上がるもの」と、つい思い込んでいる。
2つに、世界的な金余りである。新型コロナによる経済の大混乱を受け、世界各国は大幅な金融緩和を行い、さらに財政を緩めた。結果として大量の資金が供給されたわけだが、その後の経済の回復過程において、その大量の資金がまだ十分に回収されていない。日本は日銀前総裁の指揮により異常に大量の資金が供給され、その回収が緒についたばかりである。これらの大量の資金が株式市場に向かえば、基本的に株価は上がる。
3つに、それらの大量の資金を背景に、物言う株主(アクティビスト)が日本市場でわが物顔に振る舞っている。金庫に現金を眠らせている(多くは銀行預金だろうが)上場企業を見つけては、「配当を増やせ」「自社株を買え」と言い、不動産を大量に持っている老舗企業には「不動産を売って株主に還元せえ」と指図する。そう言われた企業はアクティビストに経営権を握られるのが怖いものだから、配当、自社株買い、不動産売却を検討する。短期的に株価が上がるから、アクティビスト以外の投資家が提灯買いする。
4つに、このアクティビストの後ろには、東証がある意味で控えている。23年3月、東証はPBR(株価純資産倍率)1倍割れの企業に対し、「経営努力をして1倍割れを解消せよ」と発破をかけた。PBR1倍割れを解消する手っ取り早い手段が配当を増やすことと、自社株買いであるから、アクティビストの動きはその東証の発破と呼応している。
5つに、日本の上場企業が小粒すぎる。円安もあり、時価総額1000億円企業でも小さくなってしまった。日本の上場企業で時価総額1000億円以上は900社程度である。一方、最近のニュースによると、アメリカ企業であるオラクルの社長の金融資産は58兆円だとかで、トヨタを上回っている。それはともかく日本においても100億円程度の金融資産を持つ個人は珍しくない。世界を見渡せば、金融資産1億ドル(約150億円)以上の個人は3万人近く、10億ドル(約1,500億円)以上の個人は2800人近くいるというから(Geminiの回答)、どうも日本の株式市場はグローバルな観点からは中小企業の集まりに近くなってしまったようだ。
以上から、日本の上場企業はアクティビストや世界の金持ち(実際には金持ちが運用するファンド)からすると、格好の玩具である。猫にネコジャラシ、金持ちに日本株、そういうところだろう。株式市場の雷さんが落ちないように、「桑原、桑原」。
2025/09/12