川北英隆のブログ

満席新幹線の山姥に注意

今週の某日、早朝の新幹線で東京から戻った。混んでいる博多行きの定期運行は避け、臨時の新大阪行きを予約したのだが、やはり満席だったようだ。というのも、一番不人気の「3列側・中央の席」もすっかり埋まっていたから。
「ええ、何で。まだ酷暑が終わったばっかり、秋の行楽シーズンでもないのに」だ。コロナが流行っているのでマスクをして、途中から睡眠の続きモードに入った。
名古屋手前で目覚めた。前に座っていたネエちゃんがリクライニングを目一杯倒している。「そんなんしたらあかんのに」「マスクしてるか」「もし後ろがコロナに罹っていて、互いにマスクをしてなかったら、すごく接近してるさかい即コロナ感染やで」と無言で注意した。
と、ネエちゃん、名古屋駅を出てすぐに手鏡を持ち、口紅中心に化粧を始めた。席が倒れているだけに、こちらからは鏡の中にぽっかり開けた口が見える。山姥が「これから獲物を食べるで」と口の手入れをしているみたいだ。
「ノド○○○まで見えたらどないするんや」と思いながらも気持ち悪いので、対抗策として手のひらを広げ、つまりパーの形で髪をなでつつ、ネエちゃんの鏡に映るようにした。効果があったのかどうか、鏡の角度が変わり、気持ち悪い口が見えなくなった。
その山姥ネエちゃんの隣に連れがいて、そっちはずっと普通だったのだが、関ヶ原付近でサンドイッチのようなものを食べ始めた。山姥ネエちゃんがリクライニングを倒しているから、大きく隙間が開き、そこから隣の席の連れがよく見える。
連れのネエちゃんが山姥ネエちゃんと話を始めた。何の話かは聞き取れないが、その間中、サンドイッチを食べさしで持ったままだった。しかもサンドイッチのパンと中身とが溶けかけたアイスクリームのように、つるんとなっている。「サンドイッチを舐めて食べてんのかいな」「こっちはサンドイッチを舐める現代版の轆轤首ネエちゃんか」と思ってしまう
そのサンドイッチの運命がどうなったのかは覚えていない。というのも、山姥ネエちゃんがようやく口の手入れを終え、次に山姥風の髪を梳き始めたから。「起きてすぐは化粧をせんと、新幹線の中でするのかいな」「今風の山姥かな」と思った。その瞬間、別の太いペン風の手鏡を取り出し、入念に髪を見ている。「今風の山姥の七つ道具は違うんや」とこれには感心する。
新幹線は逢坂山トンネルをくぐり抜け、山科に入った。溶けた風情のサンドイッチがいつの間にかなくなっていたので、「山姥ネエちゃん達は京都で下りるのかな」と思っていたら、下りる準備をしない。「新大阪なんや」と行き先が判明した。
「そうか万博か」と悟り、「新幹線が満席なのは万博の追い込みか」と理解した。見渡すと土曜日でもないのに子供連れの親子もいるので、「山姥に食われたらあかん、轆轤首に舐められたらあかん」と注意を促しつつ京都で下りた。

2025/09/27


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