「のれん(暖簾)」とは企業買収(合併を含む)に際し、その買収先企業の純資産額を超過して支払った金額である。会計上、その超過額を「のれん」として買収した企業の貸借対照表に計上する。要するに買収した企業の「プラスアルファ」の収益力の見積り金額である。
ここまでは問題ないのだが、その後の会計上の処理に関して、日本と欧および米では異なる。日本は減価償却と同様、に毎年償却処理を行う。欧州(国際会計基準)は償却処理を行わず、暖簾の価値が大きく毀損しているのかどうかを判定し、大きく毀損しているのなら減損処理を行う。アメリカは、かつては日本と同じだったが、今は欧州(国際会計基準)と同じ処理を採用している。
この日本と欧米との会計処理の相違に関し、企業買収した場合、外見上の損得が出る(毎年償却を強いられる日本企業にとって不利になる)ことから、日本も欧米に合わせるべきだとの意見が強くなっている。
僕は、そもそも欧州(国際会計基準)は傲慢だと思っている。欧州は資産の時価会計に積極的なのだが、その背景には企業の資産が生み出す将来の価値(正確には収益すなわちキャッシュフローの出入り)を会計的に計測できるとの暗黙の前提がある。
「でもね」だろう。そんなことが会計士や会計学者に可能なら、彼/彼女らはすぐさま億万長者になれる。そもそも欧州の上層部には貴族意識が強く残っているため、自分たちは「偉い」と常に考え、下々を指導するという思想の持ち主である。この流れで、「我々は将来も正しく予測できる」と胸を張っているのだろう。
それに定期償却せず、減損に頼っていると、減損が起きた場合に企業の利益は大きく減り、株価が大混乱する。さらにいえば、減損するかしないか、企業の決算情報に恣意性が混じりやすい。つまり粉飾まがいのことが生じかねない。要するに不健全である。
と思っていたところ、10/2の日経新聞において、斎藤静樹さんが欧州(国際会計基準)に従おうという日本の風潮に痛烈な批判を述べていた。斎藤さんは日本の会計学会の大御所である。別に大御所が偉いわけではないものの、彼の意見は正当だと僕は思うし、尊敬できる学者の1人である。彼の信奉者も多いはずだ。
斎藤さんの意見を端的にまとめれば、暖簾を定期的に償却しないことは、建物や機械設備などを減価償却していることと不整合だとする。さらに暖簾を償却しないことは投資銀行などの利益に迎合することだとも主張する。そして「ASBJ(日本の会計基準の制定機関)委員は非常に優秀で良識がある方々だ」と語り、欧州(国際会計基準)との関係において「うまく結論を出してくれるだろう」(ある意味、皮肉かな)と語ったとか。
「どうする日本」だ。
2025/10/03