
知人と話をしていたら、「円建てで利回り4%台の債券を大手証券会社から勧められたのだけど、どうなってるのか」と問われた。資料を送ってもらい、判明した。投資家は二重に倒産リスク(債券用語でデフォルトリスク)を負うことになり、だから利回りが高く見える。
証券会社が勧めた債券はクレジットリンク債と呼ばれる、債券の顔をした契約である。この「債券」では投資家が生命保険会社的に位置づけられ、企業のデフォルト、つまり企業の死亡リスクを負う。
たとえば額面100円の「債券」の場合、契約で特定された企業のデフォルトリスクを負担する代わりに、「保険料」相当の対価(たとえば20円)をもらう。契約期間が10年だとすると、10年の間、企業がデフォルトしなければ20円(多分だが、たとえば毎年2円ずつ10回、合計20円)が投資家のものになる。企業がデフォルトすれば、投資家は100円を支払わなければならない。以上、死亡保険の仕組みと一緒だと理解できるだろう。しかも投資家は100円を当初に支払っているから、企業が死亡した時の保険金を事前に積んでおいたことになっている。もちろん、企業が死亡しなければ100円は返ってくる。
この企業の死亡保険はCDS(Credit Default Swap)と呼ばれる金融商品であり、活発に取引されている。クレジットリンク債を仕組んだ証券会社は、投資家からCDSを買ったことになる(企業死亡保険の加入者になる)から、その買ったCDSをすぐさま市場で売却するのだろう。
今回のクレジットリンク債を見ると、実は2社に関するCDSが組み込まれていて、どちらかの企業が死亡すれば投資家は100円を支払い、契約が終わる。しかも、両社とも有名どころでありながら、プロの債券投資家にとっては信用不安が高まっている企業だから、「保険料」が高い。別角度から見ると、証券会社にとって、素人投資家には「有名な企業だから、倒産はまずありまへん」と説明でき、他方で「保険料」が高いからクレジットリンク債の当初の利回りを高く設定できる。しかも「保険料」の高い企業を2社も組み込んだので、円利回り4%台が実現できたわけだ。
証券会社は最初の利回りの高い仕組債と呼ばれる債券を、あの手この手で販売し、儲けようとしてきた。金融庁からお目玉を食らったこともある。今回のクレジットリンク債は仕組債の一種でもあり、実は2008年、当時のアメリカの大手投資銀行(日本の証券会社と機能がオーバーラップする金融機関)の破綻の一因ともなっている。
そんな商売に、「やっぱり旨いから止められん」と日本の大手の証券会社が乗り出そうとしている。これが知人の会社を勧誘した証券会社だけならいいのだが、心配だ。
2025/10/18