
山で一番多く危険を感じた動物は犬である。2回、対決の場面を迎えている。この余波から、ペットとしての犬にもあまり親近さを感じない。犬好きの方には申し訳ないし、今の隣家にいる人懐こいゴールデンレトリバー、ユウちゃんとも親しくない。
そもそもはといえば小学校と高校の同級生だったA君家の犬だろう。彼とも親しかったはずなのに突如として指を噛みつかれた。いつものように頭を撫でようとした瞬間である。
1980年代から90年代、低山にハンターと猟犬の多い時があった。犬に出会わないかどうか、いつも気にして歩いていた。当時の犬は今の熊みたいなものだ。猟犬との取っ組み合いは熊より軽いかもしれないが、それでも怪我なしに終わらないだろう。
1986年、忘年会を兼ねた部の旅行の翌朝(多分)、箱根の浅間山の登山口を何とか見つけた瞬間だった。野良猟犬(5匹程度いたか)に囲まれた。当時、社会問題として浮かび上がっていた飼い主に捨てられた猟犬だと思うと、飢えているに違いないと推論でき、身の危険を感じた。
山での鉄則として「逃げると危ない」と教わっていたので、犬を睨みつけるしかなかった。犬も、僕の前面を取り囲むだけで襲ってはこない。睨みつけながらゆっくりと登山口の方に向きを変え、一歩ずつ遠ざかった。登山口に入って歩き始めた後も、犬が追いかけてこないかどうか心配だったが、そんなことはなかった。新しい獲物を狙うのが先決だったのか。
ハンターと猟犬といえば、もはや1980年代終わりの群馬の山としか記憶にないが、山頂で休んでいると近くで猟銃の音がした。流れ弾の危険があるので岩陰に潜み、食事をしながら猟銃の音が収まるのを待ったこともある。
これは純粋の山ではないが、パイネに近いチリ側の国境の町で犬に襲われかけた。ホテルの広い裏庭を歩いていると犬が2匹寝転んでいた。1匹は近くの土産物店で見かけた大人しそうな犬だったので、遠巻きにしようと歩き続けた。と、2匹がむくっと起き上がり、僕の次の1歩が合図だったかのように向かってきた。
「危険や」と思って引き返そうとしたのが悪かった。犬がさらに向かってくる。仕方ないので振り向き、(ホテルの従業員が来ないかなとも思い)2匹に吠えかかり、睨んだ。それで犬の動きが止まった。睨みを続けながら、箱根の時のように一派ずつ遠ざかった。
外国の犬には手を出さないのがいい。日本と違って狂犬病のおそれがある。とくに東欧はリスクが高いとされていた。そんな時、ルーマニアのブカレストへ出張で行き、ついでに山手の寺院を訪ねた。野良犬が多く、観光地をうろついていたので遠巻きに歩いた。
インドでも犬が多かった。タイやミャンマーも多いのだが、食事が足りているのか暑いのか、ぐたっとしているので何となく安心感がある。とはいえ集団で襲ってきたら、襲われる側はどうしようもないだろう。
2025/11/16