
ニデック(日本電産)の代表取締役、永守氏が辞任した。今後は非常勤の名誉会長として残るのみという。モータ関連で世界の大企業になる夢はとりあえず挫折した。81歳、残念だろうと思う。原因は、永守流の経営がいくつかの点で摩擦を生んだからだと思う。
第1に、これはマミコミを取り上げている点だが、永守流の「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」という経営方針が厳しすぎた点である。
ニデックが中小企業であれば、永守氏の目が行き届くから、従業員も必死に働く。監視の目を逃れてサボることが難しい。しかし大企業になってくると、監視に漏れが生じる。「できました」とウソの報告をする難易度が下がる。
不正会計問題は、その漏れの中で生じたと考えたい。永守氏自身が「できました」とのウソの報告を指導したり認めたりすることは、彼の性格としてありえないだろう。
一方、いまの日本社会は甘えの中にある。自分自身に対しても甘い。だから経営層の誰かが嘘の報告をしたとしても不思議ではない。とくに怖いトップの叱責を逃れるためには十分にあり得る。
永守氏にミスがあったとすれば、1つは、今の社会の風潮を十分に見抜けなかったことだろう。もう1つは、信頼に足る分身を育てなかったことだろう。僕自身が知るかぎり、彼にとって専門人材は使い捨ての感が強い。すべてが永守氏自身の血となり肉となり脳ミソとなり飾りになったのであって、権限や役割の移譲は何もなかったと思う。
第2に、永守氏の経営手腕はもちろん、方針としての「出来るまでやる」がどこまで通用するのかという点である。永守流の激しい経営がニデック(日本電産)に成長をもたらし、モータで群を抜く企業にまでなった。中小の同業他社を次々に飲み込んでいった。
しかしニデックが大企業になるとともに、競争相手も大企業になってくる。すると競争に全勝することが難しくなる。電気自動車用のモータが典型例だろう。競合相手が自動車大手や中国メーカーとなり、簡単に勝てなくなった。この時点で「出来るまでやる」との経営方針に反省が生じてもよかったはずだが、どうなったのか。
多分、そんな簡単に経営方針を変えられるはずもなく、また企業風土として染み込んでしまっているだろうから、従来路線上で突っ走り、変な方向に逸脱する者も登場するに違いない。ニデックの岸田社長が「組織風土の改革が必要」だとし、「必ず正しくやる」という倫理観を取り入れると記者会見で語ったのが、今のニデックの状況を物語っている。
永守氏のもう1つのミスは、企業風土の変革に乗り出さなかったか、乗り出すのが遅かったことである。ワンマン社長だったから仕方なかったのかもしれない。
とはいえ、ニデックの今回の挫折を「そら見たことか」とほくそ笑む企業があるとすれば、その企業ははるかにニデックに劣ると言っておきたい。指導力を発揮し、挑戦することが企業経営者の社会的役割である。サラリーマン社長に徹することは退廃でしかないから。
2025/12/21