川北英隆のブログ

画一が壊す食文化

前にも書いたと思うのが大根の葉である。スーパーでは噺家ならぬ「葉なし大根」が一般化している。いつから葉なし大根という、いわば頭を切り落とされた大根が普通の姿となったのか。
子供の頃の大根がどんな姿なのかは覚えていないものの、「大根」と言われた瞬間に思い浮かべるのが、青々と葉の付いた大根である。葉を切り落とされた大根なんて、片端と言うか差別対象の、つまり「葉の傷んでしまった大根だったのかな」と思ってしまう。
ところが、スーパーが大量に大根を仕入れるようになり、「葉が運搬の邪魔」というので切り落とされて流通するようになった。おかげで大根は「白い部分を食べるもの」になり下がった。食文化の退化だろう。
とはいえ子供の頃、大根の葉を食べた記憶がない。他の地域は知らないものの、奈良は野菜天国だった。母親は農家の生まれだったためか、大根の葉を食べなくとも青い物に困ったことがない。だから堂々と捨てていたと想像する。
しかし京都の町中に暮らすと、青いものが不足する。老舗の糠漬屋で大根を買うと当然のごとく葉が付いてくるし、葉がないと「どうしたん、葉なしやん」と店員に聞いてしまう(この質問の主語はカミさん)。
しかもその葉が美味い。先日、夕餉に出た大根の葉とジャコとの炒め物を食べていると、「大根、葉だけ欲しいね」「安かったら実(白い部分)を捨ててもええな」となった。
もちろん極論で、たまたま大学からの帰り、横を通った八百屋に葉付き大根があったので買って帰ると、「まだ実が1本残っているのに」とボヤかれた。でもその翌日だったか、すぐさま葉の炒め物が登場し、「やっぱり美味いやん」となったのだが。
食文化は多様である。それなのに一律に「葉を切り落としたのが大根」という思い込みは大手スーパーの顧客調査不足、怠慢である。少なくとも京都の店は、たとえ会社全体が全国展開していたとしても、大根に葉を付けて売るべきだろう。
そんな地域の文化を知らないで、よく大手スーパーは大きな顔をしていられると思う。葉ではなく、頭を切り落とされた無頭エビみたいなものか。

2025/12/29


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